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最高裁判所第二小法廷 昭和38年(オ)451号 判決

上告人

入江理雄

ほか二名

右三名訴訟代理人

小野善雄

被上告人

鹿内四郎

右訴訟代理人

寺井俊正

主文

原判決中、上告人入江きそに対し建物収去土地明渡を命じた部分を破棄し、右部分につき本件を仙台高等裁判所へ差し戻す。

原判決のその余の部分に対する上告を棄却する。

右部分についての上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人小野善雄の上告理由について。

原判決は、仮に上告人佐藤和男が上告人入江理雄から原判決別紙目録第二の建物の敷地を所有者熊谷さくよの承諾をえて転借したとしても、該建物についての保存登記は、右敷地の第三取得者である青和銀行の所有権取得登記の後になされたものであるから、上告人佐藤和男は転借権を青和銀行に対して主張できず、また上告人入江理雄の賃借権の対抗力をもつて第三者に対抗できるとの主張は独自の見解であるとして、被上告人の建物収去土地明渡の請求を認容していること、論旨指摘のとおりである。

しかしながら、転貸借は、賃借人が賃借物を更に賃貸するものであるから、賃借人の有する賃借権が第三者対抗要件を具備しており、かつ転貸借が有効に成立している以上、転借人は、自己の転借権について対抗要件を備えているとにかかわらず、賃借人(転貸人)がその賃借権を対抗ししうる第三者に対し、賃借人の賃借権を援用して自己の転借権を主張しうるものと解すべきである(昭和八年七月七日大審院判決、民集一二巻一八三五頁参照)。

されば、原審は本件転貸借が有効に成立したかどうか、本件土地所有権および原判決別紙第一建物の所有権がともに競落によつて被上告人の前主である青和銀行に帰した結果、上告人入江理雄の有していた本件土地賃借権が混同によつて消滅したのか、或は上告人佐藤和男の転借権があるため混同の例外をなすのか等の争点につき審理を進め、上告人佐藤和男がその転借権を被上告人に主張しうると解するならば、さらに上告人入江きその主張する建物買収請求の当否につき審及すべき筋合であつたのに、たやすく被上告人の建物収去土地明渡の請求を認容したのは、転借権の対抗力に関する法理を誤解し、その結果、審理不尽、理由不備の違法を犯したものというべきである。論旨は理由あり、原判決中、別紙第二建物の収去、該敷地明渡の各請求を認容した部分を破棄し、右部分につき本件を仙台高等裁判所へ差し戻すべきものとする。

なお、原判決中、その余の部分については、上告理由の主張がないから、該部分に対する上告を棄却する。

よつて、民訴法四〇七条一項、三九六条、三八四条一項、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(裁判長裁判官奥野健一 裁判官山田作之助 草鹿浅之介 城戸芳彦 石田和外)

上告代理人小野善雄の上告理由

原判決は法律の解釈を誤り且判例違反の違法がある。

原判決は(七枚目裏七行目より)第一の建物の所有権者が尚第一審被告理雄なりとすれば同被告の第三の土地に対する賃借権は第三者である銀行に対抗出来るものであるか、同被告から土地の借地権を転借した第一審被告佐藤か同地上に登記された自己の建物を所有することもなく第一審被告理雄の対抗力を以て第三者に対抗できるとの主張は独自の見解であると判示した。

これ建物保護法第一条の解釈を誤り且判例違反の違法をおかしたものである。

即ち借地人か借地の一部を賃貸人の承諾を得て適法に転貸したときは転借人が登記なき建物を所有していても借地人が右土地の上に登記ある建物を所有しておればその借地人の借地全体の上の借地権の対抗力には何等の消長を来たさないものである。(大判昭和一二年二月二二日全集四輯五号四三頁同昭和九年十一月二七日民集二三二五頁参照)

これを本件について見るに上告人佐藤は借地人の上告人理雄より昭和二五年その一部を賃貸人の承諾を得て転借した、これより先借地人の理雄は昭和二一年六月七日所有建物の回復登記をなしていること甲第一号証の通りである、よつて上告人理雄が第三者対抗力を取得した後、銀行か右の土地を競落によつて取得しその後昭和三五年九月九日被上告人か右銀行より買受け銀行の地位を承継したものであるところ上告人(引受参加人)入江きそは上告人佐藤の建物を競落によつて昭和三六年九月二七日取得した訴外三浦より買受け右佐藤の地位を承継したものである、これ上告人佐藤は被上告人に対し対抗することか出来るのであるから仮りに右佐藤か強制競売により競落されたとしても右対抗力は建物の敷地利用権を保護するにあるものであるから建物の所有者か変つたとしても被上告人は敷地利用権を否認し得るとなす根拠に乏しく上告人入江きそは被上告人に対抗し得るものと解さねばならないのに原判決は、その前提の解釈を誤つた前記判示は違法たるを免れない。

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